大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)1号 判決 1981年7月16日
控訴人(原告) 株式会社藤松
被控訴人(被告) 生野税務署長
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五三年一一月三〇日付で控訴人に対してなした昭和四九年ないし昭和五二年の各六月分の源泉徴収所得税納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の事実上、法律上の主張は、原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決四枚目表二行目の「判然とせず」の次に「課税要件が」を加え、同七枚目裏四行目の「現定」を「規定」と訂正する)であるから、これを引用する。
証拠関係について、控訴人は甲第一ないし第四号証を提出し、乙号各証の成立を認め、被控訴人は乙第一ないし第四号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。
理由
当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するのであつて、その理由は次に付加するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
原判決理由四(二)の次に左のとおり付加する。
「(三) 控訴人は、資産価値の増加は所得の実現といえないから、未実現の利得を課税対象とすることは不当であるというが、未実現の利得も担税力を増加させることは否定できず、これを除外することは担税力に応じた公平な税負担の原則にそぐわない結果となるし、実現した利得のみを課税対象とすると租税回避が生じ易くなる。実現した利得のみを課税対象とするか、未実現の利得をも加えるか、またその範囲、限度等は結局、租税立法政策の問題というべきである。ところでわが国の所得税法、法人税法は、一定の場合に未実現の利得を所得として課税の対象としており(所得税法五九条、四〇条、法人税法二二条二項等)、本件で争われている所得税法二五条二項もその一例であるが、立法政策の問題である以上、原則として違憲の問題を生ずる余地のないことは前記(一)で説示したとおりである。
また控訴人は、所得税法二五条二項は、配当所得となりえないものを配当所得とみなす規定であつて不合理であるというが、前(二)において説示したように、法人税法二条一八号は株主の保有株式の価値の増加益に担税力を認めてこれを課税対象とするものであり、また利益積立金額を資本に組み入れることは、会社が一たん利益積立金額を株主に分配したうえ、あらためて同額の資本の払込みを受けることと経済上の効果を同じくするのであるから、株主の保有株式の増加益に課税する場合、実現利得である配当所得と同様の取扱いをすることはあながち不合理とはいえない。
よつて控訴人の主張は採用できない。」
そうすると原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 今富滋 藤野岩雄 坂詰幸次郎)